【談話】愛知の最低賃金50円引き上げでは生活を改善できない

最賃近傍で働く労働者の生活実態を審議に反映し、異議審での大幅引き上げを求める

 愛知地方最低賃金審議会は8月5日、愛知労働局長に対して、愛知県最低賃金を中央最低賃金審議会の目安どおり50円引き上げて1077円とする答申を行った。引上げ額そのものは過去最高の引上げであるが、物価上昇分の後追いにすぎず一桁足りないと言わざるを得ない。貯蓄できず、冠婚葬祭やつきあいをあきらめ、食事を切り詰めて生活せざるを得ない、最低賃金近傍の労働者の生活改善にはつながらず、労働者の賃上げによる経済活性化にもつながらない。直近の国民生活基礎調査でも「生活が苦しい」とする回答が59.6%を占め、統計が始まった1986年以来最悪で、先進国の中でも極端に低い日本の最低賃金が根底にあることは明白である。

 愛労連は、今回の審議にあたり、「生活改善、地域経済の好循環のために、愛知県最低賃金を1500円とし、中小企業支援を求める要請」署名9210筆分、「最低賃金を時給1500円に!!」オンライン署名3424人分を最賃審議会会長と愛知労働局長に提出し、愛知の最低賃金を1500円に引き上げることを求めた。1500円の根拠は、「愛知県最低生計費の推計(2023年)」結果による科学的なものであるとともに、街頭で行ったシールアンケートでも84%が1500円以上を求めている。
 そして、7月26日に開催された第515回最賃審議会には、県内の労働組合や団体から1500円への引き上げなどを求める意見書が昨年の28通を大きく上回る47通が提出され、その内容が説明された。
 提出された意見書では、1500円への引き上げが求められ、労働者委員もこれを踏まえた発言がされた。同時に、最賃法25条5項に基づいて最賃改定の影響を直接受ける非正規雇用労働者の生活実態や意見を審議に反映させるため、意見陳述の実施が求められたが、労使委員の反対によって閉ざされた。審議会はもとより専門部会でも、非正規雇用労働者の実態や声を反映させる発言は公労使いずれの立場からも聞くことはできなかった。審議会にも専門部会にも非正規雇用労働者の委員はおらず、当事者抜きの議論になったことは極めて遺憾である。

 昨年に続き、実質的な金額審議がおこなわれる専門部会での審議が公開された。そして、労使双方の委員から引上げ額をめぐる主張が繰り返しされたことは一歩前進であった。しかし、その大半の時間が休会とされ、この間に持たれた公労および公使の「協議」に時間が費やされた。第2回から第4回専門部会での休会時間は5時間以上に及んだが、この「協議」は議事録も残されない密室協議であり、県民に開かれた審議とはほど遠い。

 最低賃金は、第9条で労働者の生計費・労働者の賃金・事業の賃金支払能力を考慮して定めることとされており、労働局からは生計費2点、賃金4点、支払い能力12点の資料が提出された。しかし、その点数だけを見ても支払い能力に重点が置かれたと言わざるを得ない。とりわけ最も重視されなければならい生計費にかかわる資料は2点しかなく、その内の家計統計表は、勤労者世帯だけのものではなく、無職世帯や勤労者以外の就業世帯を含むものである。さらにこの消費支出は、税や社会保険料などの非消費支出を含まないため、これらを含む生計費の水準よりかなり低い金額であり、この資料では労働者の生計費に関するまともな議論はできない。これまで最低賃金は、事実上、単身者の生活を念頭に置いて議論されてきた。ならば、労働者の生計費は2人以上の世帯の生計費(消費支出など)ではなく、単身の勤労世帯の資料を用いるべきだ。この点からも労働者の生計費に関するまともな審議はできないといえ、資料を提出した労働局の責任は重大である。そして、議論に耐える資料の提出を求めなかった公益委員の役割も問われるし、専門家としての信頼も揺らぐことになる。

 また、専門部会では賃金と人口流出について発言が労使双方からされた。愛労連も審議会と労働局に対し、「地域別最低賃金と人口の社会的増減の比較」を提出し、最低賃金が高い都市部に人口が流出していることを指摘した。専門部会でも、労働者委員から愛知と同じAランク内でも東京・神奈川・埼玉・千葉に流れていることが発言された。しかし、使用者委員からは「一般的には一定レベル以上のスキルを持った方、たしかに東京の方に行っているのかな」「最賃引き上げたから流出とまるか」との発言がされた。日本のものづくりを支える愛知の使用者を代表する発言として看過できない発言である。最低賃金額と人口流出の相関関係は明白であり、ここに立脚しつつスキルを持った労働者にこの地域で働いてもらえるようにするため、魅力ある仕事の創出と地域経済を活性化させていく責任の一端が経済団体にはあるのではないか、厳しく問うものである。

 愛労連は、最賃近傍で働く労働者の生活実態を審議に反映し、異議審での大幅引き上げを求めるものである。そのためにまもなく始まる異議書の提出を県内の労働者・労働組合に広くよびかけるものである。
 そして、物価高騰から生活を改善し、誰もが8時間働けば人間らしく暮らせる最賃1500円と全国一律最低賃金制度の実現、中小企業支援策の抜本的強化、公正取引の実現のためにいっそう奮闘することを表明する。
以上

2024年8月5日

愛労連事務局長  竹内 創
(愛知県労働組合総連合)

※愛知県最低生計費の推計(2023年) http://www.airoren.jp/2024/04/8066.html

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