会計年度任用職員の処遇改善と雇用の安定をもとめる緊急の要請書~自治体での「ジェンダー平等」の実現、「男女の賃金格差」の是正にむけて~

愛知県知事・愛知県内市町村長 様

愛知県労働組合総連合
議長 西尾美沙子

 貴職におかれましては、日頃から任命権者として、「会計年度任用職員」の待遇改善と安定雇用に務められていることに敬意を表します。

 昨年10月から愛知県内の「最低賃金」が1,027円に引上げられ、岸田首相も「コストカット型経済」からの転換に向け、2030年代半ばまでには、1,500円をめざす方針を公表しました。それに対し経済同友会の新浪代表幹事は、年始のインタビューで「早期に2000円を目指すべきだ」と述べ、目標のさらなる上積みを求めました。残念なことに、自治体等で働く「会計年度任用職員」の賃金は、「最低賃金」に張り付く形で設定されてきました。しかし、「最低賃金」の上昇トレンドは続くことが確実な情勢のもと、官民を問わず「人材確保」や安定した「行政サービス」の提供の視点からも、会計年度任用職員の雇用や処遇をめぐる情勢の潮目は変わってきています。

先頃、県内の市町村に先駆け、みよし市が「会計年度任用職員のあり方の見直し」を記者発表しました。「会計年度任用職員を漸減し、正規職員を増加」「会計年度任用職員の報酬の大幅な引き上げ」「年収の壁に捉われず、常勤職員に近い勤務形態で働ける職員の積極的な任用」とし、一般事務職員の年度途中の採用を面接試験重視(学科試験なし)で実施するなどを発表したところです。非正規職員から正規職員への登用における学科試験なし・面接試験重視の試みは、近年都道府県を中心に広がっている「リターン制度」(介護・育児により離職した元職員を学科試験なしで面接等のみで再採用)にも準じるもので、「能力の実証」からすれば大いに学ぶべきところです。

 また、2月21日の参議院国民生活・経済・地方調査会で参考人として意見陳述した竹信三恵子和光大学名誉教授は、「女性の賃金が上がらないと(全体の)賃金が上がらない」「説明のつかない(男女間の)賃金格差があり、性差別などを見直すべきだ」と述べ、女性労働に依存する非正規公務員制度についても、「一番のネックは短期契約だ。声をあげにくい短期契約を意図的に導入する労務管理の方法自体が不公正で間違っている」と厳しく指摘をされました。まさに、地方自治体で運用する「会計年度任用職員制度」が、地域経済や国民生活、そして「ジェンダー平等」社会の実現、さらには住民が享受すべき「行政サービス」にまでも根深く影響を及ぼしていることがわかります。

 

 私ども愛知県労働組合総連合(以下、愛労連とします)は、加盟団体等でおこなった調査結果や愛労連「非正規公務員なんでも電話相談」等に寄せられた非正規公務員からの相談を踏まえ、以下に「会計年度任用職員制度」の現状と課題をまとめさせて頂きました。

 

  • SDGs」「ダイバーシティ」に逆行する「ジェンダー不平等」な制度

 全国の自治体等で働く「会計年度任用職員」は、2022年4月の制度運用以降も増加し、2023年4月時点で74万人以上(ごく短時間勤務を除く)に達しています。愛知県内の市町村でも、職員の過半数を占めている自治体もめずらしくありません。その8割近くが女性で、労働契約法や最低賃金法等の労働法制にも守られない不安定かつ劣悪な処遇にさらされています。その結果、行政が進めるべき「ジェンダー平等」「SDGs」「ダイバーシティ」「ウェルビーイング(Well-being)」の推進に逆行し、地方自治体における「男女の賃金格差」までをも増幅させています。

 

  • 任命権者による「不適切な対応」の数々

「国際女性デー」をまえに、愛労連が実施した「愛労連非正規公務員なんでも電話相談」には、国や愛知県、市町村ではたらく非正規公務員から10件の相談が寄せられました。うち8件は女性非正規公務員からの相談で、「2月末になっても来年度の雇用がどうなるのかも知らされない。3月末に『雇止め』では次の仕事も見つけられない」、「自治体の都合で、(業務量は変わらないのに)勤務時間だけが減らされようとしている。『嫌ならやめれば』という雰囲気を感じて寂しくなる」、「有給休暇を半日の勤務日に取得すると一日分の取得とされる」、「(これぐらいで十分だろうと)女性を馬鹿にしている制度だと思う」など、どれも不安定な雇用と差別的な処遇を訴えるものばかりでした。

日頃より、愛労連に寄せられる相談のほとんどは、改定された総務省「事務処理マニュアル」や繰り返し発出された「総務省通知」の主旨を踏まえない、任命権者による不適切な対応による事例です。任命権者としての雇用主責任が問われています。

 

  • 行政が「男女の賃金格差」を深刻化させている事実

厚生労働省の全職員(非常勤職員を含む)における「職員の給与の男女の賃金格差」(2022年度)は、男性を100とした場合、63.7%で、実にその差異は36.3%にも達しています。自治体職員の「男女の賃金格差」についても、都道府県・政令市のうち最も差異が大きな長野市では52%に達し、その理由を市は「女性に給与の低い非正規職員(会計年度任用職員)が多い」と答えました。これでは、行政における「男女の賃金格差」の是正、「ジェンダー平等」の実現など、叶うはずもありません。

そもそも、「非正規公務員制度」とは公務員総人件費の削減策として、正規職員を非正規労働者に置き換えたにすぎないものです。その安上がりで不安定な雇用の多くを女性労働者が担わされています。この制度が著しくジェンダーバランスを欠いたものとなっている根拠のひとつがここにあります。さらに、そもそも女性が多く、高い専門性が求められる保育士や図書館司書、相談員といった専門職種にまで、この制度が用いられていることも、地方自治体および地域の「男女の賃金格差」を深刻化させる要因となっています。

 

  • 行政が地域に「官製ワーキングプア」の女性労働者と家族を生み出している

2022年に日本自治体労働組合総連合(自治労連)が行った会計年度任用職員を対象に実施した全国調査「今だから聴きたい!誇りと怒りの2022アンケート」(以下、「ほこイカ2022アンケート」とします)によれば、約半数が「主たる生計を維持するもの」と答え、会計年度任用職員が「家計補助的な労働」ではないことが分かりました。さらには4分の1が「みずからの収入のみで生計を維持している」と答え、そのうち半数は、年収200万円以下のいわゆる「ワーキングプア」と称される賃金水準であることも分かりました。行政が地域に「ワーキングプア」の女性労働者と家族を生みだしている事実が明らかになりました。会計年度任用職員のほとんどは、地域でくらす生活者でもあります。「地域経済の振興」を所管する行政の責任は非常に重いはずです。

 

  • まさに「令和の非正規差別」!会計年度任用職員だけ「賃上げ」をしない市町村も

厚生労働省の統計によれば、2023年の1人あたりの物価高騰を考慮した実質賃金は前年比で2.5%減り、過去2年間の実質賃金のマイナス幅は3.5%にも達しています。そもそも賃金水準が低い会計年度任用職員ほど、生計の維持の面からも物価高騰の影響が大きく生じており、情勢に適応した対応が任命権者には求められています。

昨年の春闘における「賃上げ」を反映して、県内すべての自治体において、首長をふくむ特別職・正規職員・再任用職員の給与の「プラス改定」が実施されました。政府の方針や総務省の助言に基づき「会計年度任用職員」にも「プラス改定」を実施した愛知県や名古屋市などでは、今年に入って「4月遡及分」の支給がおこなわれました。短時間勤務でも、勤務時間と職によっては1人あたり7万円程度が支給されました。この額は、来年度に政府が物価高騰対策として実施する「定額減税」の水準を超え、当事者の生計を支える貴重な「収入」になっています。

しかし、県内の多くの市町村では、会計年度任用職員の「給与改定」だけが実施されていません。理由はともあれ、「会計年度任用職員」から2023年度の「賃上げ」分を取り上げていることに違いはありません。まさに、任命権者による「非正規差別」「ジェンダー差別」そのものです。

政府は会計年度任用職員の措置にかかる費用についても補正予算で対応すると表明し、総務省も「正規職員と同様の対応を促す通知」を繰り返し都道府県・政令市に発出しています。とりわけ、交付税交付団体に対しては、この措置に必要な財政需要額が増額補正されているはずです。

会計年度任用職員の生計の維持、公務員の給与決定に係る「情勢適応の原則」の点からも、そして何より、正規職員と会計年度任用職員の「不合理な格差」をなくす点からも、未実施となっている市町村の任命権者には、3月8日の「国際女性デー」をまえに、政治的・道義的責任が厳しく問われます。

 

  • 来年度からの「勤勉手当」の支給、市町村では「不適切な対応」の動きが

昨年5月の地方自治法改正によって、会計年度任用職員に「勤勉手当」の支給が可能となり、各自治体では来年度からの支給にむけ条例改正が行われています。しかし、愛知県内の少なくない市町村では、総務省が例示した法改正の主旨に沿わない不適切な対応の検討がすすめられています。具体的な例を挙げれば、再任用職員との均衡を理由に会計年度任用職員の勤勉手当の支給月数(割合)などについて抑制を図ることや、新たに勤勉手当を支給する一方で、現在の給料、報酬や期末手当について抑制を図ることなどです。

先日のNHKの調査報道によれば、山形県内の市町村では、総務省がもとめる正規職員と同じ支給額を支払うのは、全体の17%にとどまっていることが明らかになりました。専門家からは、女性活躍やジェンダー平等を率先垂範すべき行政が、組織内の秩序を理由に、「正規職員との格差」と「男女の賃金格差」を助長する行為を押し進めていると厳しく指摘されています。愛知県内の市町村で、同様の事態を招くことがあってはなりません。

 

  • 「雇い止め」の不安が拭えない不安定な雇用

 冒頭にも紹介したとおり、2月から3月の時期は、「会計年度任用職員」にとって不安と緊張の日々となります。制度運用にあたりとりまとめられた総務省「事務処理マニュアル」で、ことさら会計年度ごとの任用が強調されたことや、人事院が定める指針にある「公募によらない再度の任用更新上限が2回まで」などとの均衡を考慮するあまり、いわゆる「3年目の壁」あるいは「毎年の公募」による、勤務の実態を顧みない機械的な「雇止め」が全国で発生しています。任命権者としての雇用主責任や当事者の労働者としての権利が、おざなりにされてきた現実が浮き彫りとなっています。

自治労連「ほこイカ2022アンケート」の結果からも、回答者の約 6割近くが 5年以上の長期にわたり同一の職を継続しており、会計年度任用職員の多くが「臨時の業務」とは言い難い業務に従事していることが裏付けられています。

こうした中で、当事者たちの声に押され、昨年、総務省は「事務処理マニュアル」を改訂し、必ずしも任用の継続に「公募」が必要なわけでは無いことを明確にし、任命権者にたいしても、やむを得ず任用を打ち切る場合であっても、「円滑な再就職の促進のための助成及び援助」、「大量の雇用変動の届出」等、労働者施策推進法と関連省令に沿った雇用主としての責任ある対応の徹底を促しました。

しかし、先日の「非正規公務員なんでも電話相談」に寄せられた、「2月末になっても来年度の雇用がどうなるのかも知らされない。3月末に『雇止め』では次の仕事も見つけられない」、「自治体の都合で、(業務量は変わらないのに)勤務時間だけが減らされようとしている。『嫌ならやめれば』という雰囲気を感じて寂しくなる」、「(これぐらいで十分だろうと)女性を馬鹿にしている制度だと思う」などの声にとどまらず、「突然の雇止め」の告知に途方にくれる相談や、雇用不安を前に「ハラスメント」にも声を上げられない深刻な相談が後を絶ちません。

人事院でも、「23勧告」で言及した国の期間業務職員に対する「公募によらない採用は、同一の者について連続2回を限度とするよう努める」としている指針の見直しの検討をすすめ、いよいよその具体策が示されようとしています。例え「会計年度任用職員」に無期雇用転換権を保証する「労働契約法20条」や「パートタイム・有期雇用労働法」が適用除外であったとしても、人事委員会を有さない市町村の任命権者には、会計年度任用職員の労働者の権利を保障する労働基準監督機関としての義務が課せられていることを踏まえた対応が求められます。

 

以上の現状と課題を克服するために、愛労連は下記の8項目の要請について、任命権者として速やかかつ確実な会計年度任用職員の雇用の安定と処遇改善の加速を要望いたします。

 

1.会計年度任用職員制度の抜本的な運用の改善をはかり、行政の「あらゆる形態の貧困をなくすこと」、「ジェンダー平等を達成し、すべての女性のエンパワーメントをはかること」、「正規と非正規や男女の賃金など、あらゆる不平等を是正すること」などに真摯に取り組み、「SDGs」の達成を率先して押しすすめてください。

2.「給与改定」が実施されていない会計年度任用職員に、物価高騰に見合った「給与改定」を実施し、今年度内に2023年4月からの遡及分の差額支給を実施してください。また、すべての会計年度任用職員に対する「給与改定」を実施していない任命権者におかれましては、政府の方針や総務省の助言に背いてまで実施をしない合理的な理由を、雇用主責任として該当するすべての会計年度任用職員に丁寧に説明をしてください。

3.すべての会計年度任用職員に対する「給与改定」を実施していない市町村のなかで、交付税交付団体におかれては、その措置に必要な追加財政需要額が増額補正されているはずです。その財源をこの措置に使わない理由を任命権者として丁寧に説明してください。また、この財源の活用(充当)先についても詳細を説明してください。

4.地方自治法の一部を改正する法律(会計年度任用職員に対する勤勉手当の支給関係)の運用にあたっては、法改正の主旨を十分に踏まえ、再任用職員との均衡を理由に会計年度任用職員の勤勉手当の支給月数(割合)などについて抑制を図ることや、新たに勤勉手当を支給する一方で、現在の給料、報酬や期末手当について抑制を図ることなど、適正な運用を阻害する対応は厳に慎んでください。

5.任用の継続に関わっては、会計年度任用職員が住民に安心して「行政サービス」を提供できるよう、「公募によらない任用の上限回数」をなくしてください。また、行政サービスの持続的かつ円滑な提供を妨げる機械的な「公募」による「雇止め」などが生じることがないよう、改正された「総務省事務処理マニュアル」や総務省通知などを十分に踏まえた雇用者責任を発揮してください。なお、やむを得ず任用を打ち切る場合であっても、「円滑な再就職の促進のための助成及び援助」、「大量の雇用変動の届出」等、労働者施策推進法と関連省令に沿った雇用主としての責任ある対応を徹底してください。

6.23人事院勧告で言及があり、現在人事院で見直しの検討が進められている指針「期間業務職員の適切な採用について」(平成22年8月10日)の進捗状況の把握に努め、指針が見直された際には、速やかに地方自治体でも国の非常勤との均衡が図られるよう留意してください。

7.いわゆる税や社会保障に係る「年収の壁」に不安を抱く当事者に対しては、厚生労働省が広報する「年収の壁・支援強化パッケージ」や「法改正に伴う社会保険適用拡大」の説明・周知を丁寧におこなうなど、雇用主としての責任を果たしてください。

8.行政の持続性の担保にむけ、比較的長期にわたって継続される見通しのある職、専門性が求められる職、フルタイムやそれに近い勤務時間の会計年度任用職員の職を正規化してください。その際は、自治体での経験を応募要件とするようにしてください。そのうえで自治体の人材育成と人材確保、地方自治の維持発展に責任を持ってください。

以上

 

 

【参考資料】(URL)

参考1)【総務省通知】「会計年度任用職員制度の適正な運用等について」(2023年12月27日)000920648.pdf (soumu.go.jp) 

参考2)【総務省通知】地方自治法の一部を改正する法律(会計年度任用職員に対する勤勉手当の支給関係)の運用について (soumu.go.jp)(2023年6月9日)

参考3)【総務省通知】「会計年度任用職員制度の導入等に向けた事務処理マニュアル(第2版)」の修正等について000853425.pdf (soumu.go.jp)

参考4)【厚労省リーフレット】「(国または地方公共団体の方へ)離職する職員の再就職のために」

参考5)【自治労連】「いまだから聴きたい!ほこイカ2022アンケート」最終報告(2022年11月21日記者発表)221121houkoku.pdf (jichiroren.jp)

参考6)【国際連合】SDGs報告2023:特別版 | 国連広報センター (unic.or.jp)

参考7)【厚労省】年収の壁・支援強化パッケージ|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

参考8)【総務省】「会計年度任用職員制度について」(説明資料)000638276.pdf (soumu.go.jp)

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