最低賃金を1500円に引き上げた場合の経済効果試算(労働総研、2023年、主に愛知県分)

2023年2月7日、労働運動総合研究所(労働総研)は、「最低賃金が全国一律1500円になったら生活はどう変化し、経済はどう変わるか」と題する報告を発表した(全文は、http://www.yuiyuidori.net/soken/osirase/2023/data/230207_01.pdfを参照)。この報告で、厚生労働省「令和3年(2021年)賃金構造基本統計調査)」(特別集計)と、各都道府県の産業連関表および総務省「平成27年(2015年)産業連関表」を利用して、全国一律最低賃金の時給1500円への引き上げが、地域経済にどのような効果をもたらすかが、47都道府県別に分析されている。ここでは、愛知県地域への経済効果と、それに関連する4つの表を掲載する。

1.愛知県地域への経済効果

①時給1500円未満の愛知県内労働者数:約157万人

②上記労働者の時給を1500円に引き上げた場合の総賃金増加額:約1兆233億円

③家計消費支出の増加額(総賃金増加額のうち、税や社会保険料などを除いて消費に回る額):約7818億円

④生産誘発額:約1兆1359億円

⑤付加価値誘発額(生産活動によって新たに生み出された価値で、雇用者所得や営業余剰など):約6682億円

⑥雇用者数の増加:約67100人

⑦税収増:約1296億円=国795億円、愛知県501億円

2.上記の関連表

第5表(最低賃金を時給1500円に引き上げた場合の都道府県別賃金増加額)、第6表(最低賃金を時給1500円に引き上げた場合の都道府県別経済効果)、付表3(都道府県別・業種別生産および粗付加価値誘発額)、付表4(都道府県別・業種別雇用誘発数)

なお、結果のデータを利用するにあたっては、つぎの2点に注意されたい(労働総研の報告書より要約)。

第1は、「賃金構造基本統計調査」は、従業者1~4人の零細企業と5~9人の小企業の約1/2、および官公庁を調査していないので、それを補完する必要があり、別途推計して第5表の全国計に加算した(第5表の「全国」は「賃金構造基本統計調査」の集計値、「全国(全数推計)」は加算した値であり、調査分の1.2502倍になっている)。

第2は、第6表と「付表」の関係である。今回の分析に使用した方法は、地域産業連関分析で最もよく使われる方法であるが、最低賃金の分析には、必ずしも適していない。それは、この計算式には、「その地域内の民間消費需要に基づき、その地域内の原燃料やサービスを使って行った生産活動」という前提が置かれているからである。公共事業やイベントの分析ならそれでよいが、最低賃金の場合は、全国一斉に実施されるので、他地域からの需要である「移入」も同様に拡大し、域内企業はそれに基づいて生産活動を行うことになる。したがって、この計算式では、地域経済に対する影響が、実際より小さく評価されてしまうのである(移入が全需給の50%以上を占める地域もある)。移入需要を含めた分析を行う方法がないわけではないが、必要な情報が得られない都道府県が多数あり、仮に情報が得られたとしても計算に多くの時間がかかり、さらに47都道府県を合計しても全国ベースの分析と一致する保証はない。一方、今回の分析は、47都道府県を同一の方法で分析しているので、相互比較が可能というメリットがある。そこで、第6表の各都道府県の値(産業合計値)は、47都道府県の合計が全国産業連関表で分析した結果とほぼ一致するように修正し、「付表」の「都道府県別生産誘発額」は修正しないままとした。したがって、全国一律最低賃金の引き上げによる経済効果を都道府県単位で見るときには第5表および第6表を、各地域でどの産業の生産や雇用が増えるかは、「付表」を見ていただきたい。

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