第一交通に対する割増賃金請求事件勝利判決にあたっての声明

 本年11月10日(水)、名古屋地方裁判所民事第一部(井上泰人裁判長)は、第一交通労働組合に所属する鯱第一交通及び千成第一交通の労働者4人が求めていた未払いの時間外手当の請求事件について、請求額をほとんど認める労働者側勝訴判決を言い渡した。
 この事件は、長時間労働をしながら、時間外割増賃金を支払われないことに対し、労働者が労働基準監督署に是正申告をし、労基署から調査された際、是正を約束しながら、労基法所定の割増賃金を支払わないことから、未払残業代を会社に請求したものである。労働基準法違反を是正せよとの要求は、第一交通グループに所属する労働者の第一の要求であった。そのため、第一交通労働組合を結成し、労働条件の改善を目指したが、会社側は、「第一交通に労働組合はない」「第一交通に有給休暇はない」と、労働組合否認、労基法違反を繰り返してきた。
 今回の判決は、原点というべき第一交通グループの賃金制度に違法との判断を示したものであり、その意義は大きい。判決は、付加金を含めて請求額3810万4262円であるところ、認容額は、3561万1247円と原告らが請求していた金額のほとんどが認容された。しかも、判決理由は、最大の争点であった賃金規程の有効性について、規定の内容が労働基準法に違反しているかどうかではなく、賃金規程が労働者に周知されていなかったことを捉え、就業規則としての効力がないとして否定し、労働基準法に従って計算し直した割増賃金の支払いを認めた。否定したのは、会社側が労働者が労働委員会に出席していたなど、明らかに就労していなかった部分を除く大部分を労働時間として認め、割増賃金の支払いと付加金の支払いを命じた。就業規則の周知性を争う多くの判例において、裁判所が形式的に職場への備え置きを理由に周知を認め、就業規則としての効力を認める中、名古屋地裁の今回の判決は、会社の取締役が備え置かれている就業規則中に賃金規程があったとの証言を、委員長のファイルの中になかったという証言の具体性と委員長、書記長らが度々労働基準監督署に賃金の決定方法や計算、支払方法が周知されていないことを問題として申告に赴いていたことから、嘘の申告をしていたとは考えにくいとして、賃金規程の周知を否定した。さらに、賃金規程の周知後も、従前の労働条件に比較して、労働条件の不利益変更にあたることから労働契約法10条所定の要件を満たしている主張も立証もないと賃金規程の有効性を否定したものである。
 この判決は、現在、中労委で争われている不当労働行為事件の帰趨にも大きな影響を与えるとともに、全国最大のタクシーグループ会社である第一交通産業株式会社において、同様の賃金支払いがなされていることから、その波及効果は大きいものと考えられる。その意味で、今回の判決の賃金規程の周知性と不利益変更の要件の欠如を理由とした違法性の認定は、全国的にも大きな影響を与えることは明らかである。
 愛知県労働委員会の不当労働行為の棄却に始まる長く苦しい闘いは、先の名古屋高裁の書記長の逆転勝訴判決、最高裁での確定に続く、今回の名古屋地裁判決での価値ある勝利によって明るい展望が大きく開かれた。これらの判決を活かして、私たちは、今後も、第一交通グループにおける労働基準法違反を正し、労働法が存在するまともな会社にするために闘うものである。

2021年11月18日

第一交通をまともな会社にする会
第一交通事件弁護団
第一交通労働組合
愛知県労働組合総連合

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