コロナ禍における労働組合の職場活動アンケート調査結果

アンケート結果ダウンロード
※PDFファイル

2020年、これまで経験したことのないコロナ禍が全世界に蔓延しました。人と人が接する機会が奪われ、自由に語り合うことができなくなりました。こうしたなか、労働組合はこれまでのような対話を中心とした運動が困難な状況に陥りました。
 生活と仕事を守るため、多くの労働組合は苦闘を重ねました。組合運動の原動力と言える“要求”はコロナ禍で多様化しました。
 各労働現場に押し付けられたコロナ禍での影響はどのようなものであったか、そしてどのような苦労と創意工夫があったか、そんな思いを共有できないものか。愛労連民間部会は、アンケート調査に乗り出しました。
 2020年秋に中立労組や愛労連傘下の労働組合を対象に行なった「職場活動アンケート」は、予想を超える215組合から集約されました。今回、労働問題研究者を含めて分析を行ない、ここに調査結果がまとまりましたので、冊子としてまとめました。今後の活動の一助になれば幸甚です。なお、今後第2弾のアンケートにも取り組んでいきます。

2021年7月

愛労連民間部会

「コロナ禍における労働組合の職場活動アンケート調査」分析結果について

1,はじめに
 この報告書は、2020年12月から2021年1月にかけて、愛労連が実施した「コロナ禍における労働組合の職場活動アンケート調査」を、分析したものです。当アンケートは、愛労連傘下の労働組合から49、愛労連にも連合にも参加していない労働組合から166の回答があり、当初の予想を超えて多くの回答をいただきました。ご協力をい
ただいた労働組合のみなさん、ありがとうございました。
 アンケートを実施した当初は、コロナウィルスの感染拡大によって、社会・経済が大きく制約を受け、それに対して労働組合がどう対処しているのかを調べようと思っていました。しかし、回収されたアンケートを見ると、厳しい状況の中で苦悩しながらも、試行錯誤する労働組合のみなさんの姿が垣間見られ、ただ現状を知るだけでは
なく、困難な事態を打開するために共にできることは何なのかを、考えることが求められているのではないかと考え直しました。
 そこでこの報告書では、みなさんからのご回答をもとに、コロナ禍における労働組合の職場活動を、
 ・コロナ禍の状況について(2,経営や先行きの不透明さに対する不安)
 ・雇用の状況について(3,やはり非正規に集中する緊急時の解雇)
 ・労働組合の状況について(4,試行錯誤で進めた労働組合の活動)
 ・企業のコロナ対策について(5,休業とテレワークによるコロナ対策)
 の4つに大別して分析し、その上で共にできることには、どのようなものがあるのかを考察、提案します。
 なお、アンケートに記載してもらった業種は29種類となっていますが、調査結果の検討においては、産業分類を大別し、建設業、製造業、貨物運送業、旅客運送業、卸売業、医療福祉保育教育業、サービス業、その他業種の8種類に統合・一部分割し、分析しました。アンケート結果の詳細については、付属の資料をご参照ください。

2,経営や先行きの不透明さに対する不安
 アンケート調査の自由解答欄で最多数だったのが、経営や先行きの不透明さに対する不安を訴える声でした。特にタクシーや観光業(旅客運送業)は、急速に業績が悪化しており、危機的な状況にありました。
 またそれ以外の分野でも、製造業や貨物運送業、建設業では、景況の悪化によって生産・営業が縮小され、それが人員の削減につながるという状況にあり、景況の悪化に対して不安を抱いている様子が、はっきりと読み取れました。2020年3月期決算(前期決算)での業績が前年を下回ったとの回答は131組合(61%)、受注・売上の見込みでは厳しい見通しの職場が104組合(48.4%)、資金繰りについては苦慮していると回答した職場が37組合(17.2%)と、かなり厳しい状況であったことが分かります。
 このように景気という個別の企業では対応が難しい要因によって、経営が大きく左右される環境に置かれている企業が多い中、雇用調整助成金を除いて公的な支援がないことは、景況が悪化したときの経営の選択肢を大きく狭めています。政府の支援を受けられないために、事業所ごとに個別に対応をせざるを得ず、経営の悪化を人件費
で調整するために、正規社員の賞与減と非正規社員、特に派遣社員の雇用調整で対応するため、結果として派遣切りをせざるを得ないしくみ(社会構造)になっています。

3,やはり非正規に集中する緊急時の解雇
 雇用調整のあった職場では、圧倒的に派遣社員の契約満了が主でした。パートやアルバイト労働者も解雇されていましたが、その割合は少数です。また正規社員については、調査時点では雇用が守られている様子でした。
 正規社員に対し、人員削減・リストラが実施されたのは9組合(4.2%)となっており、賃金減額などがほとんどで、人員削減が実施されたという結果にはなっていませんでした。非正規社員に対する人員削減の実施については、1割程度の21組合で確認され、その業種は、製造業11組合、運輸業6組合となっており、運輸の中でも旅客運送業は
2割の組合で実施されていました。
 一時金については、去年の実績を上回った組合が13、下回った組合が83(38.7%)となり、一時金によって経営の悪化を調整している様子がうかがえます。
 派遣社員の雇用について少し詳しく見てみると、契約満了がほとんどで、2009年度に社会問題となった派遣切りのように、契約期間中の解雇は行われていない様子でした。また今回のアンケートとは別に、愛労連で行っている労働相談の様子からも、寮から追い出されるというような強引な事態はなく、法令と契約に則った対応がなされ
ているようです。
 非正規社員の雇用については、派遣社員にも雇用調整助成金を支給し、派遣切りをしなくてもコロナ禍の経営危機を乗り越える方策があるのではないかと考えられます。
派遣社員が雇用調整助成金を受給するには、派遣元の会社の申請が必要ですが、派遣先の労働組合からの発案で、派遣先企業から派遣元の会社に要請をすれば、場合によっては雇用の維持が可能なのではないでしょうか。ともに働く派遣社員が雇用を維持され、景気が回復した後も一緒に働き続けることができれば、現場の負担も大きく軽減
されます。

4,試行錯誤で進めた労働組合の活動
 労働組合の活動状況については、現場に行けない、会合ができない、イベントを中止したという声が寄せられました。その結果、組合員とのコミュニケーション不足や、職場の実状を把握できないといった状況が報告されており、労働組合による日常的な職場の監視機能が、果たせなくなっている様子が伺えます。労働組合の会合を、Zoom
などのオンラインツールを積極的に使って行うなど、工夫をしている労働組合もありますが、会合以外の活動をどのように展開したら良いのかという点は、課題が残されています。
 執行委員会ができなかった、組合員同士の交流会ができなかった職場が172組合(80%)、団体交渉ができなかったのが19組合、組合員交流ができなかったのが124組合ありました。特に旅客運送業では、営収の落ち込みが激しかったため、団体交渉に至らなかったことがうかがえました。
 また、コロナ禍での組合活動について、情報共有を求める意見もありました。調査時点では全体的に、コロナ禍に応じた新しい活動を展開している様子はなく、従来通りの対応に留まっており、どうしてよいのか困惑している様子がうかがえました。非正規社員の解雇や雇い止めが行われていると回答した職場の労働組合も、それ以上の
言及がなく、どう対応してよいのか方策がないのではないかと考えられます。
 他方で、人手不足に陥っている職場の労働組合から、可能であれば他の職場の余剰人員を一時的にでも受け入れたいとの、重要な提起がありました。雇用の情報を熟知している労働組合同士が、職場を越えて連携し、共同で転職を含む雇用の継続支援をすることができれば、労働者に対する解雇や雇い止めによる影響も、かなり緩和され
るのではないかと考えられます。長期的な人手不足の傾向にある中で、企業で育成した人材を無駄に切り捨てることのないように、職場間(労働組合間)で大切に扱うことが、これからは求められるのではないでしょうか。

5,休業とテレワークによるコロナ対策
 感染防止のため、多くの職場で一時休業やテレワーク(在宅勤務)が導入されていたことが明らかになりました。一時休業(在宅勤務を含む)が実施された組合が138(64.2%)で、産業別に見ると、卸売業で85.7%、サービス業で80.0%、その他業種で75.0%、建設業で69.0%、製造業で62.3%と高くなっていました。全体的に一時休業と
テレワークが、企業によるコロナ対策の主な方法でした。生産・営業が縮小されたことによって勤務が減った側面と、職場の過密による感染拡大を防止する側面の、両面があったものと考えられます。
 また、勤務が減少したことを前向きに捉え、技能継承の機会として活用している職場もありました。このようなやむを得ない事情による休業を前向きにとらえるために、政府の雇用調整助成金は有効なのではないかと考えられます。
 アンケート調査の回答を見ても、国や自治体に求める政策として、「雇用調整助成金の拡充や期限の延長」、「雇用調整助成金をはじめとする各種助成金・給付金・支援金などの申請事務支援」を求める回答が多くありました。今回のアンケートとは別に、雇用調整助成金の申請事務作業が煩雑で、特に中小・零細企業では申請をすることが
難しいという声も届いています。
 雇用調整助成金は、雇用を維持し、経営を守るために設立された制度で、今回のコロナ禍においては早くから活用が進められていました。また厚生労働省が、わざわざ派遣社員向けの申請案内を作成し、派遣切りの発生を抑制しようとしていたことも、今回のコロナ禍の特徴です。しかし、申請手続きが煩雑であることが、申請手続きを
抑え込んでいることは問題です。申請制度の改善を要求するとともに、労働組合間の協力によって、例えば申請手続きの共同学習会や、あるいは共同での書類作成作業を行うなどの、新しい取り組みが求められます。

6,共にできること
 以上の分析から、愛労連として労働組合のみなさんと共に取り組みたいことを考察します。
 まず第一に、アンケート調査の継続実施です。今回のアンケートでは、コロナ禍に際して労働組合が直面している状況を明らかにするために、様々な設問を用意しました。思いの外たくさんのご回答をいただいた上に、愛労連と労働組合のみなさんと、共にできることがあるのではないかと思い至り、今後は労働組合のみなさんの思いや
ニーズを把握し、共にできることを追求していきたいと考えます。また同時に、コロナ対策を含め、政府に有効な対策を求めるための、調査も進めます。
 第二に、労働組合間の情報共有が十分になされていないことが明らかになりました。今後は意見交流会や学習会などを開催し、情報共有を進める必要があります。特に、非正規社員の解雇が日本の労働組合のアキレス腱となっていますが、労働組合間の離職者の支援活動や、雇用調整助成金の共同の取り組みなど、できることはあります。
 愛労連は、今後も労働組合のみなさんと共に、力を合わせて活動を推進していきますので、引き続きご協力をお願いします。

以上
日本福祉大学非常勤講師 天池洋介

カテゴリー: