2017年7月13日
愛知労働局長 木暮 康二 様
愛知地方最低賃金審議会 会長 中山 惠子 様
愛知県労働組合総連合
議長 榑松 佐一
愛知の最低賃金改定にむけて日々ご尽力されていることに敬意を表します。
さて、いよいよ中央最低賃金審議会(以下「中賃」)で、2017年の最低賃金の改定にむけた議論がはじまりました。昨年、愛知県は目安通りの25円引き上げで845円になりましたが、このペースでは目標の1000円に届くのは遠い先の話であり、1000円に届いた頃には「1000円では暮らせない環境」になっていると予想できます。地域間格差の拡大も社会問題となっており、どちらも喫緊の課題といえます。
私たちは以下の理由から2017年の「最低賃金大幅引き上げ」及び「全国一律最賃制の実現」、審議にともなっての「公正な行政の推進」を強く求めるものです。
記
(1)最低賃金生活体験結果が最賃額の低さを物語る
最低賃金で暮らすというのはどういうことでしょうか。愛労連では毎年2月に「最低賃金生活体験」にとりくんでいます。私たちはこのとりくみを“検証”と位置づけ、20年以上続けてきました。今年は時間給845円で1日8時間、月22日で計算した額(148,720円)から税金・保険料額(27,958円)を差し引いた120,762円で28日間暮らせるかどうかについての体験です。すでに資料は審議会で紹介されていますが、最終的に集約した48人のうち、額内で生活できたのは8人(達成率16.6%)でした。金額が上がってきていることで、少しずつ達成率もあがっていますが、あくまでも「1ヵ月だから出来る」という声が圧倒的です。体験者の声は、「精神的にも貧しく、人間らしい生活と言えない」、「我慢しなければ達成できないが、我慢して生活しなければ生きていけないのはおかしい」。他にも切実な声が多数ありました。
最低賃金の審議をめぐってはこの間、日本弁護士連合会が声明を出しています。政府目標の達成には1年あたり50円以上の引き上げが必要であり、全地域で「少なくとも50円以上の引き上げを答申すべきである」との内容です(しんぶん赤旗6/28)。
(2)労働時間短縮のためにも最賃の引き上げを
愛労連がおこなった「最低生計費試算調査」結果について最終報告を昨年秋にまとめました。この結果、25歳の名古屋市内在住の単身者で、男性は時間額1,306円(月額226,945円/年額2,723,340円)、女性は時間額1,307円(月額227,075円/年額2,724,900円)必要なことが明らかになっています(※いずれも税込み額であり、時間額については月173.8時間労働で除した額)(しんぶん赤旗6/30)。この調査は全国各地でとりくまれており、6月22日には厚労省記者クラブで記者会見をおこないました。調査に関わった静岡県立大学短期大学部の中澤秀一准教授は「低賃金であるために長時間働かないといけない構造になっている。労働時間短縮のためには、時間外労働規制だけでなく、最低賃金を引き上げることも必要だ」と語っています(しんぶん赤旗6/23)。
(3)生計費調査結果から全国一律最賃制が必要なことは明らか
地域経済を支えるために必要なのは地域間格差の解消です。最高額の東京都と最低額の沖縄・宮崎県の格差は218円に広がりました。愛労連では、東海・北陸7県の労働局へ「最賃キャラバン」として「最賃の大幅引き上げ」と「全国一律最賃制」の実現などをこの間、要請してきました。低いといえどもそれでも愛知は東海・北陸で郡を抜いています。このため、静岡、三重、岐阜といった隣県からの労働力の流出が問題になっています。しかし、静岡県でおこなった最低生計費調査結果で若年単身世帯の結果を見ると愛知県の額を上回っています(男性で時間額1,419円/月額246,659円)。この点については全国どこで暮らしても時間額で1,300円~1,400円必要なことが各地の結果から明らかになっており、中日新聞では「人間らしく暮らすには最低賃金1,500円やっぱり必要」と報道しています(中日新聞5/22)。
全国の「最低生計費試算調査」結果を公表した際、記者会見に同席した和光大学の竹信三恵子教授は、「都会と地方の生活費に差がないと言うことは実感として言われていたが、具体的な試算で示されました。最低賃金を上げると企業が倒産するとよく言われますが、米国では地域の景気が良くなり、結果的に倒産したとは聞いていない。最賃を引き上げたからといって必ずしも会社がつぶれるわけではありません。むしろ良質な雇用の創出が生まれます」と発言しています(しんぶん赤旗6/23)。世界的にも全国一律最低賃金制が主流です。47もの地域に細分化された日本の制度を改善させることが必要であり、地域間格差の是正には全国一律最賃制度の実現が急務です。
(4)最低賃金の引き上げとともに中小零細企業への支援を
最低賃金の引き上げには労働者の7割が働く中小零細企業の支援が欠かせません。愛労連は毎年、中小企業団体との懇談などをすすめ、中小企業の経営財源につながる施策の拡充を政府に求めてきました。最低賃金引き上げとあわせ、中小企業への支援を求める署名を両輪でおこなってきています。労働条件の改善や賃上げを実現し、労働者を定着させたいとの思いは企業側も労働者側も同じです。中小企業の経営が安定し、そこに働く従業員の「健康で文化的な生活」が維持できる賃金を保障してこそ、「経済の好循環」が生まれます。その実現のためにはすべての労働者の賃上げのための最低賃金の引き上げと中小企業支援策の拡充こそが必要です。
(5)生活体験者・非正規労働者の声が生かされる審議を
今年選出された審議会委員の顔ぶれは、大企業労働者が中心の労働組合の代表が多く、実際に最賃の影響を強く受ける中小零細企業や医療・福祉労働者の声が届いているとは思えません。毎回、要請していますが、肝心な議論の場が非公開であることは大問題と考えます。全国で広がる意見陳述は昨年、25地方(青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、栃木、群馬、神奈川、新潟、滋賀、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山、鳥取、岡山、広島、山口、愛媛、高知、福岡、長崎、鹿児島:57.5%)が実施し、専門部会での陳述は内6県でおこなわれています。意見陳述は議論の中身を充実させる利点があり、密室で短期決戦の審議会には最低でも取り入れられるべきものと考えます。もはや意見陳述の実施を阻む理由はないのではないでしょうか。
(6)公正な行政の推進を
審議会委員の任命、あるいは審議会のあり方、運営については「公正」さが何よりも担保されなければなりません。ILO(国際労働機関)も差別的任命の解消を求めています。
審議会については、そもそも公開が原則のはずです。実際に、すべての審議を公開している地方最低賃金審議会では、問題は生じていないとのことであり、愛知でも問題なく公開できると考えます。厚労省労働基準局が5月10日に掲載した「労働基準関係法令違反に関する公表事案(平成28年度の後半6ヵ月分)」では、愛知労働局の管轄内で「最低賃金法第4条」違反が10件ありました。「最低賃金」の周知に労働局などが努力されている事は存じていますし、愛労連も宣伝や署名行動など年間を通じて「最賃違反」をなくそうと街頭での行動をおこなっています。それでも違反企業がなくならない背景には、「最低賃金」の審議が知られていないことも大きいと考えます。さらに言えば、その重要な審議の場に“参加”できるのが「限られた労働組合を代表する者だけ」という状況が連綿と続くのはいかがなものでしょうか。
政策決定プロセスの透明化は、民主主義の基本でもあります。最低賃金の引き上げとともに、偏向行政の改善に向けて審議会が尽力するよう求めるものです。
以上、2017年の審議会の開催にあたり、意見を提出します。
以上