愛知県最低賃金の改定に関する異議の申出書

2015年8月19日

愛知労働局長 藤澤 勝博 様

愛知県労働組合総連合
議長   榑松 佐一

 

愛知労働局一般公示第75号「愛知県最低賃金の改正決定に係る愛知地方最低賃金審議会の意見に関する公示」が8月5日にありましたので、愛知県労働組合総連合は、以下のとおり異議の申し出をおこないます。

 

 

8月5日、愛知地方最低賃金審議会は愛知県の地域最低賃金の時間額を、これまでの800円に、中央最低賃金審議会が示した「目安19円」に、わずか1円上積みして820円とするとの答申をおこなった。今回の答申により、昨年に続いて20円の引き上げとなるが、憲法第25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」を営むという規定には値しない。今回の答申を破棄し、目安への大幅上積みと、最賃1000円以上への引き上げの見通しを明らかにすることを求めるものである。

 

理由

 

・格差拡大の是正、経済の活性化のためにも最賃の大幅引き上げが必要

(1)最低賃金に張り付く募集が広がる可能性が否定できない

愛知地方最低賃金審議会(以下「愛知審議会」という)の今年の答申は「中賃目安」を昨年以上に“よりどころ”にしている。中賃のAランク「19円」という目安は3年連続2ケタの引き上げとなるが、多くの非正規労働者が望む〝大幅な引き上げ〟にはほど遠い。さらに「愛知審議会」ではこの目安にわずか1円を上積みしたのみである。異次元の金融緩和やアベノミクスによる円安誘導で、生活必需品がこぞって値上がりを続け、消費税増税の影響による消費回復の遅れや支出抑制が景気の好循環を妨げるなか、これでは時間給で働く労働者の生活改善につながらない。愛労連では6月19日に「最低賃金の大幅引き上げを求めるハンガーストライキ行動」にとりくみ、座り込み行動をしながら県下の求人情報誌をもとに時給マップを作成した。このとりくみで判明したのは、愛知の最賃額が昨年800円になったことで、最低賃金での募集が広がっていることだった。当然のことながら、これが801円という金額であれば、805円ないし810円と切り上げられるところである。端数がない金額は、求人における時間額が最低賃金に張り付きやすく、最低賃金での募集が秋以降、さらに増加する可能性が否定できない。

(2)〝女性が活躍できる社会〟のため男女の賃金格差是正、最賃の大幅引き上げこそが求められる

毎年、私たちがとりくむ「最低賃金生活体験」は、最賃額がわずかずつでも引き上がり、生活が少しは楽になるのかという点でここ数年、注目しながらおこなっている。その内容はすでに「愛知審議会」に対して提出しており、ここではくり返さないが、最低賃金法の目的でもある「生活保障」や「良質な労働力の確保」にはならないことは明らかである。それどころか、物価上昇・増税などの影響により、指定額内の生活におさめることが毎年困難になっていることが示されている。

2013年9月に国税庁が発表した民間給与実態調査によると、男性の平均給与は502万円であるのに対し、女性は268万円で、女性の賃金は男性の53.4%に過ぎない。正規、非正規の平均給与についてみると、正規468 万円、非正規168万円となっている。女性では100 万円超200 万円以下の者が489 万人(26.7%)と最も多い。このことは女性の半数以上が非正規雇用で働いている事実と重なるものである。女性労働者のなかで、非正規労働者が6割近くを占め、そのなかでもパート労働者の7割は女性で占めている。男性一般労働者の賃金水準を100とした場合、女性パート労働者の賃金水準は45前後である。現行の最低賃金額は、家計の中で、一家の主たる働き手は男性、女性は家計補助的な労働として働くことを想定して算出されているのではないかという疑念がぬぐえない。国際的にも日本の女性労働者の賃金格差の実態は間接差別として指摘されているところである。パート労働者の賃金を上げることは、女性差別・男女賃金格差を是正するうえで意義は大きい。

現行の、男女賃金格差、年金受給額にも反映し、生涯所得での男女格差を生み出し、女性は生涯貧困状態を抜け出すことができない。〝女性の活躍〟を言うのなら、生涯にわたる女性差別を是正させるためにも最賃の大幅引き上げが求められている。

(3)このままでは最賃「時間給1,000円」への目標に9年かかる

最低賃金の引き上げがこうしたペースなら、多くの労働者の世論になっている「時給1000円以上」に到達するにはあと9年かかる。5年前に閣議決定された2020年までの目標「早期に全国最低800円・全国平均1000円」の実現は絵に描いた餅に等しい。8月11日現在、34地方で答申が出されているが、目安を上回ったのはわずか6地方のみである。広島県の+3円を除く5地方が愛知県同様1円上積みであり、多くが目安額に張りついてしまった。目安ベースでいけば、地域間格差は昨年の211円から214円に3円広がる。地域疲弊の元凶ともなっており、人口流出が懸念される東北・秋田県では弁護士会会長が「最低賃金額の大幅な引き上げを求める会長声明」を出すまでにいたっている。全労連・愛労連は、「最低生計費試算調査」を全国各地でおこない、「健康で文化的な最低限の生活を維持できる“絶対的指標”」を導きだし、総額ではどの地方も、税・社会保険料込みで月額23万円、年収270万円が必要という試算結果を出している。最賃額の差は実際の賃金の格差となり、地域の労働力と消費購買力を縮小させ、地域社会の活力を失わせる。優秀な労働力は賃金が高い都市部に流出し、C・Dランクの地方はますます衰退することは目に見えている。最賃時間額1000円以上、全国一律最低賃金制度の確立が急務である。

(4)日本の最賃は生活保護水準に満たない

国連・社会権規約委員会が日本の最低賃金の水準が生活保護給付や最低生計費などを満たすに至らないことに懸念を表明し、改善を勧告している(2013年4月29日~5月17日に採択した“総括所見”において最低賃金の改正を日本政府に求めている)。このことはここ数年、意見書としてもとりあげているが、勧告文が触れている「最低賃金の水準を決定する際に考慮する要素を再検討することを要求する…」という部分が重要である。国連が何を見直すべきとしているかと言えば、「最低賃金の引き上げは企業にとっても有利であること」が報告されているアメリカの調査レポート(2014年2月12日「最低賃金引き上げのための経済的論拠」)に見て取れる。レポートによれば「従業員のモチベーションを喚起することにより生産性を向上させ、離職率の低下により新規採用や研修にかかる経費を削減し、また、従業員の欠勤率を低減させるなどである」とある。全労連や愛労連が求めているのは最低賃金の引き上げだけではなく、「中小企業支援の拡充と最低賃金の改善による経済好循環の実現」であり、それらを求める要請署名には、愛知の中小規模の商工業者を組織する団体から約70の賛同署名が送られている。政府や大企業がいう“トリクルダウン”では格差が広がり、所得格差の拡大で経済成長が低下する。対して最低賃金の引き上げは、対象となる低所得者層が家計消費を拡大することで内需拡大効果が大きい。このことは労働運動総合研究所(労働総研)が2012年に試算報告済みである。

(5)格差と貧困をなくし少子化の解消・日本経済の活性化へ

政府は少子化を問題視し、その対策について様々な施策をとっているが有効な解決策となり得ていない。少子化の主因は、結婚しているカップルが子供を産まなくなったのではなく、適齢期の男女が結婚しなくなったためだと言われている。2011年の出生動向基本調査独身調査(国立社会保障・人口問題研究所)では、男女とも9割程度の人は結婚するつもりがあるのに、非婚化が進んでいる。特に25歳以降になると、結婚出来ない理由として、「適当な相手がいない」があげられ、女性の場合、結婚相手に経済力を求めているためと考えられる。こうした女性の要求は、自身が非正規であり、収入が低いためである。男性も含めて雇用環境が悪くなっていることが、現在の若者の結婚を遅らせる大きな原因の一つになっていることは確実である。

2009年度の大企業の経常利益17.8兆円から2013年度の34.8兆円へ1.9倍とほぼ2倍に増えているが、利益を労働者に還元する労働分配率は同63.8%から55.1%へと8.7ポイントも低下している。ILO(国際労働機関)が昨年12月に発表した「世界賃金報告2014/15年版 賃金所得の不平等」の報告の中で「日本で(労働所得割合が)減ったのは、より多くの産業で非正規労働者を雇えるようになった1990年代半ばの労働市場改革に起因する。その結果、正社員より低賃金の非正規労働者が増大し、長期にわたって賃金の停滞をもたらした」と指摘している。年収200万円以下の「働く貧困層」は1120万人と史上最多となっている。

内閣府が5月20日発表した14年度国内総生産は、消費不況の影響でマイナス成長だった。格差を是正し、富の再配分機能をもたせ、日本経済活性化のためにも政府が行える有効な方策の一つが最低賃金の引き上げである。

(6)愛労連は、「愛知審議会」が答申を撤回し、上記の状況もふまえ、あらためて議論をおこなうよう求めるものである。審議にあたっては、全国30地方にまでひろがっている「意見陳述の実施」、「専門部会の公開・傍聴」など、開かれた議論をおこなうよう、運営のあり方の抜本的な改善を求めるものである。

以上

 

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