2015年7月17日
愛知労働局長 藤澤 勝博 様
愛知地方最低賃金審議会 会長 中山 惠子 様
愛知県労働組合総連合
議長 榑松 佐一
愛知の最低賃金改定にむけて日々ご尽力されていることに敬意を表します。
さて、いよいよ中央最低賃金審議会(以下「中賃」)で、2015年の最低賃金の改定にむけた議論がはじまりました。昨年、「中賃」はAランクの引き上げ「目安」を19円とし、愛知ではこれに1円を上積みし800円ということになりました。ランクごとに「目安額」がことなったこともあり、東京で888円、最も低い沖縄・島根などで667円となり、格差がさらに拡大しました。
愛知県で800円となりましたが、しかしこの額であってもまともに生活できないことには変わりありません。まして、格差の拡大は、人口流出を激化させ、地方をいっそう疲弊させていることが報告されています。
以下の理由から2015年の「最低賃金大幅引き上げ」及び「全国一律最賃制の実現」を強く求めるものです。
記
1. 2015春闘でベースアップがおこなわれた
(1)中央最低賃金審議会 谷内大臣官房審議官が「最低賃金を含む賃上げ」を要請
7月1日(水)、午前10時から厚生労働省9階の会議室で、第43回中央最低賃金審議会が開催されました。厚労大臣からの諮問では、谷内大臣官房審議官が「昨日、日本再興戦略、骨太方針が出されました。「雇用状況が好転し、地方によってばらつきはあるものの失業率は3.3%まで回復している。ベースアップも増加している。好転し始めた景気を賃上げに活かし、経済に反映させることが必要だ。骨太方針では中小企業の活性化、最低賃金の引上げを含めて、全ての賃金を引き上げて企業収益を改善させることが求められている。一昨年の大臣が出席したときと同じで、骨太方針、再興戦略に基づいた審議をお願いする」と諮問にあたってのあいさつがありました。
(2)15春闘で賃金を引き上げても消費税の増税の影響が続いている
報道によれば今春闘は大手企業を中心にベースアップを確保したとされています。愛労連の職場でも数年ぶりのベースアップ獲得や非正規労働者の時給アップが報告されています。しかし、昨年4月の消費税の8%への増税、円安による物価の上昇などによって実質賃金はマイナスが続いています。今年4月に実質賃金が改善との報道があったものの、ただちに修正され、下がっていることが明らかになりました。消費税増税の影響は1年を経過しても続いているのです。これでは、厚労省・谷内大臣官房審議官が言うように「全ての賃金を引き上げて企業収益を改善させること」にはつながりません。非正規労働者が急増している今日、最低賃金の引き上げはきわめて重要です。
2.悪化する生活 最低賃金の引き上げ、中小企業支援の強化を
(1)働くもののくらしはさらに悪化している
愛労連は2010年、「人前に出ても恥ずかしくない生活」をするにはいったいどのくらいの費用がかかるのかという「最低生計費調査」にとりくみました。その試算結果はこの間、何度か資料提出しましたように、25歳の名古屋市内在住・男子単身者で、時間額1,285円(月額223,230円/年額2,678,760円)でした(※いずれも税込み額)。しかしこの5年間、労働者の生活をとりまく環境は大きく変わり、生活が悪化していることはまちがいありません。貧困率は上昇、とりわけ母子家庭における貧困はOECD加盟国のなかで最悪の事態になっています。非正規として働かざるを得ない労働者は、ダブルワーク・トリプルワークという働き方を選択せざるを得ない状況になっています。
(2)最低賃金生活体験で明らかになった最賃額の低さ
愛労連では今年も2月に最低賃金生活体験をおこなっています。1日8時間、月22日で計算した額(140,800円)から税金・保険料額(25,762円)を差し引いた115,038円で28日間暮らせるかどうかについて体験しました(別紙資料参照)。今年は100人以上がとりくみましたが、最終的に集約した60人のうち、額内で生活できたのはわずか7人でした。
体験者は、「友人との付き合いもなく、自分のメンテのための時間・お金もかけられず、文化的な生活とはほど遠い。癒やしてくれるペット費用はとても見込めず、孤独で寂しい独身生活が目に浮かぶ」「食費をうかすために7回昼食を抜いたがダメだった」と辛かった生活を振り返った感想を述べており、報告会の場では「1ヵ月だからできるが、1年では無理。ゆとりのなさが精神的なプレッシャーになる」と話しています。社会保障が改悪され、「自助・自立・共助」へと移行されようとする中、人とつながれない「最低賃金生活者」は誰にも頼ることができません。
(3)最低賃金の引き上げとともに中小零細企業への支援を
愛労連は、最低賃金の引き上げとセットで中小零細企業への支援についても充実を訴え続けています。愛労連はこの間、中小企業団体との懇談などをすすめ、中小企業家の声を聞き、中小企業の経営財源につながる施策の拡充を政府に求めてきました。独占禁止法と下請二法の抜本的改善や買いたたき・下請いじめの防止策の強化、公正取引の実現、とくに社会保険料負担の軽減制度の創設は多くの事業者が強く求めています。中小企業は地域経済を支える主役です。中小企業の経営が安定し、そこに働く従業員の「健康で文化的な生活」が維持できる賃金を保障してこそ、「経済の好循環」が生まれます。その実現のためにはすべての労働者の賃上げのための最低賃金の引き上げと中小企業支援策の拡充こそが必要です。
3.世界では最低賃金が次々と引き上げられている
(1)先進国は最賃1000円以上に
世界ではここ数年、労働者のたたかいによって、最低賃金が大幅に引き上げられています。アメリカのファスト・フード労働者が「公正な賃金と権利の尊厳を」と立ち上がり、国際連帯行動として呼びかけられた昨年の「5.15最賃底上げグローバルアクション」や今年の「4.16グローバルアクション」が後押しとなり、「最賃15ドルを勝ちとろう」という労働者の切実な声や要求が、ファスト・フード大手の経営者や中小企業家を動かしました。
さらにこうした動きを反映し、ニューヨーク州、カリフォルニア州、ワシントンDC、マサチューセッツ州など州法改正による最賃の引き上げもすすめられています。また、ドイツでは全国一律法定最賃を今年から施行し、賃金の底上げをはかっており、中国や東南アジアの国々のひきあげもすすむなど、先進国で1000円以下なのはもはや日本くらいです。
4.非正規・低賃金で働く人の声を聞き、公正な行政の推進を
(1)生活体験者・非正規労働者の声を聞く意見陳述の実施再検討を
審議会の議論が「様々な視点やデータを駆使して実施」されているとのことです。であるならば、真に対象となる人たちの「生の声」を把握するうえで「意見陳述」は欠かせません。
現在の審議会委員の顔ぶれは、大企業労働者が中心の労働組合の代表が多く、実際に最賃の影響を強く受ける中小零細企業や医療・福祉労働者の声が届いているとは思えません。さらに言えば、青年や女性の半数が非正規労働者という中で、そうした人たちの思いは専門部会の場で議論されているのでしょうか。議事録を見る限りではそうしたことも読み取れません。意見陳述は、これまでの24地方(青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、群馬、神奈川、新潟、石川、滋賀、京都、大阪、奈良、和歌山、岡山、徳島、香川、愛媛、高知、長崎、鹿児島、沖縄)に加えて今年から北海道、栃木、山口が加わり、全国27地方(57.5%)に広がっており、専門部会での陳述もおこなわれています。各地から意見陳述を通じて労働者を中心にすえた審議がおこなわれていることが報告されており、あらためて意見陳述の実施について検討するよう要望します。
(2)公正な行政の推進を
審議会委員の任命、あるいは審議会のあり方、運営については「公正」さが何よりも担保されなければなりません。ILO(国際労働機関)も差別的任命の解消を求めています。また、意見陳述も専門部会における傍聴も愛労連を排除することは偏向行政にほかなりません。審議会については、そもそも公開が原則のはずです。実際に、すべての審議を公開している鳥取、和歌山の地方最低賃金審議会では、問題は生じていないとのことであり、愛知でも問題なく公開できると考えます。さらに公開についてはメリットもあります。どのような議論が交わされているのかをリアルタイムで多くの人に知らせ、監視を高めることで、法定最低賃金の認知度が上がります。公開の場では根拠の弱い主張はしにくくなり、労使の見解と論戦の質をさらに高めることも期待できます。
また、現在は特定の労働団体から推薦された委員とその随行員のみが専門部会に出席することを認められているため、労働組合による情報格差・差別が発生していることも、行政の一機関としては許されざる運営といえます。
政策決定プロセスの透明化は、民主主義の基本でもあります。最低賃金の引き上げとともに、偏向行政の改善に向けて審議会が尽力するよう求めるものです。
以上、2015年の審議会の開催にあたり、意見を提出します。