2014年6月13日
法務大臣 谷垣禎一 殿
愛知県労働組合総連合
議長 榑松 佐一
法務大臣の私的懇談会「出入国管理政策懇談会」は10日、外国人技能実習生の受入期間を今の最長3年から5年に延長し、対象職種を現行の68職種から介護、林業、自動車整備、総菜製造、店舗運営管理の5分野を追加するなどの「報告書」を提出した。
またこれに先だって政府は4月4日「建設分野における外国人材の活用に係る緊急措置」として「建設分野での技能実習修了者について・・・雇用関係の下で建設業務に従事することができることとする(2020年度まで)」とし最大2年間の在留資格を法務大臣が認める「特定活動」で実施する方針を明らかにしている。これも事実上の「実習期間延長」である。
愛労連はこれまでに130件、500人以上の外国人研修生・実習生からの相談を受けてきたが、前回2010年の入管法改正後も日弁連、法務省のヒヤリングに違反事例の情報を提供してきた。技能実習制度には改正後もなお重要な問題点が残されており、この問題点を放置したまま実習生を拡大する「報告書」と「方針」に反対する。その理由は以下の通りである
(1)ブローカーへの罰則がない
前回の改正にあたっては、「研修生をあっせんして不当な利益を得るブローカーの存在などが指摘され」て「技能実習生の入国・在留管理に関する指針」(平成25年12月改訂、以下「指針」)に具体的な不正事例として「営利目的のあっせん行為」が上げられるなど、営利を目的とする株式会社が技能実習制度に関与することを禁止している。
愛労連は2012年1月25日、名古屋入管に対して(株)ITCを告発した。この事件は2011年11月に岡崎の給食会社で働くベトナム人実習生達に(株)ITCによる不正な講習や監理が行われていたものを告発したものである。(株)ITCは母国での「あっせん」、入国手続き、1週間しかない「講習」、日常監理、告発した実習生の強制帰国切符購入、不正賃金の支払い手続きをすべて行っていた。株式会社は技能実習制度に介在することは認められておらず、明確なブローカー行為である。愛労連からは(株)ITC名の入った証拠書類も提出した。2011年12月、名古屋入管は実習生本人と名義上の受入団体(セントラル事業協同組合)の役員を呼び出して是正を指導した。しかし入管は(株)ITCを呼び出さず処分も行っていない。これは技能実習制度に、ブローカーは「あってはならない」ことなっているが罰則はないからである。
改正前は派遣会社などが組合代表者名義を買収し、顧客企業を利用していくつもの事業協同組合を設立するなどして、一カ所に3~5もの事業協同組合があることも珍しくなかった。これは不正処分を受けても別の組合名義で受入を続けるためであった。愛労連はこのような団体をいくつも告発したが、その場合でも派遣会社の名前で監理することはなかった。しかし(株)ITCは堂々と社名を掲げて監理を行っていた。「報告書」では不適正な監理団体・実習機関への「罰則整備」が上げられているが、ブローカーへの罰則を設けなければ、「名ばかり組合」を処分したとしても効果は少ない。
(2)団体への監督機関がない
先の改正では2年目、3年目についても「団体の責任と監理のもと」で実習を行うこととされ、団体の監理責任が強化された。今回の「報告書」でも「現在指摘されている問題点を徹底的に改善した上で、制度の活用を図るべきではないかとの意見が大勢を占めた」ことを受けて「監理団体による監督の適正化」が掲げられている。そのためには監理団体自身への監督を強化することが最も有効かつ重要と考えられるが、「報告書」では全く具体的でない。また「方針」では現行の監理団体を「優良な監理団体」と書き換えたに過ぎず、優良な団体がどこにあるのかすら把握されていない。そもそも優良でない団体は現行制度でも不適正である。
「団体」に多い異業種事業協同組合は都道府県が監督官庁となっているが、年に一回の報告書類を受理するのみで、事業が適切に行われているか監督はされていない。事業範囲が多府県にまたがっている場合には役員名簿を見るだけでも各県を持ち回りで了解をとる必要がある。
先の事件当時、セントラル事業協同組合は愛知県小牧市で登録されていたが、ここは以前からこの組合の役員が経営する介護事業所であり、「団体」の事業所としての実態はなかった。セントラルは事件発覚直後に名古屋市中区の(株)ITCの近くに転居し、役員も三重県亀山市のM氏に変更された。しかし新事務所はいつ行っても不在で、電話は転送、ガスは止められたまま、窓のブラインドは2ヶ月間に一度もあいたことがない。いつも不在で「監理を十分に行うことができるような体制」があるのかわからない。
外国人実習生の受入団体は全国に1808団体、愛知県だけでも158団体がある(厚労省「人材サービス総合サイト」より検索)。受入企業の数は少なくともその5倍以上あると考えられる。「報告書」は入管による監督強化をいうが、「現下の行財政事情等でこれが十分に行えない」ことを見越してJITCOによる実効ある監視体制つくるとしている。しかし、受入企業からの会費や実習生保険事業で運営しているJITCOが受入企業を監督できないことは明白である。
(3)どこまでが「丸ごと委託」か「一部委託」か
「指針」は「団体が名目のみ監理団体となり、 実際の『監理』は他の機関が行うような場合は,当該技能実習は監理団体の『責任及び監理』の下に行われているとは認められず、不適正」としている。しかし入管は今回の事件について「外部の機関を指揮命令しながら業務の一部を分担させていた場合は必ずしも不正行為に該当するものではありません。」(3月17日参院法務委員会)としてこの団体に不正はないとしている。
愛労連は(株)ITC担当者名の入ったウソの入管対応問答集、強制帰国のチケット手配書、罰金の精算書など(株)ITC名が入った証拠を提出した。名古屋入管は実習生からも事情聴取している。入国手続きを行政書士に委託したり、講習のテーマによって講師を専門家に依頼することはあっても、本国での「あっせん」から日常監理、罰金の返済、強制帰国の手続きまで同じ株式会社の名前で行っているのに、「一部の業務を委託」と言い張るようでは「丸ごと委託」の立証は不可能である。
(4)「非常勤職員」の不正とする処分逃れ
また、前回の改正では当初案の団体要件省令七に「一定の知識経験または知識を有する」「常勤職員」が「計画を作成する」となっていたものが、業界の意見で「常勤」の2文字が削除された。法務省は監査や訪問指導を行う役職員についても「非常勤職員でも差し支えない」と説明している。上陸基準省令では「常勤の職員」が不正行為を行った場合が処分の対象となっているため、派遣会社などのブローカーが社員を団体の「非常勤職員」にしておけば、ブローカーが不正を起こしても団体は処分を逃れる可能性がある。
この事件では(株)ITCの武田規男社長が「セントラル(事業協同組合)の専務」を名のって電話してきたが登記簿に武田氏の役員名はない。「専務」というのは自称か非常勤役員と考えられる。しかし当時武田氏は(株)ITCの代表取締役であり、同社と同じ住所にある協同組合JBの代表理事に就いていた(※)。今回は(株)ITCの名前の入った証拠書類があったので株式会社の介入を告発できたが、武田氏や日常監理の担当者が協同組合の非常勤職員として不正行為を行っていた場合には、彼らの不正はあっても協同組合は処分を免れることになる。
今回セントラル事業協同組合が処分されない事情は不明であるが、監理を委託した営利企業の社員を団体の非常勤職員としておくことで処分逃れが起きないよう省令を改正する必要がある。以上。
※登記簿をみると武田氏は入管への告発の直前2012年1月22日に(株)ITCの代表取締役を辞任し、同社の所在地も岐阜県関市に移転した。現在でも武田氏は協同組合JBの役員として外国人実習生受け入れ事業を継続している。