2011年8月25日
愛知労働局長
新宅 友穂 様
名古屋市熱田区沢下町9-7労働会館東館3F
愛知県労働組合総連合
議長 榑松 佐一
愛知労働局一般公示第50号「愛知県最低賃金の改定決定に係わる愛知地方最低賃金審議会の意見に関する公示」が8月10日にありましたので、愛知県労働組合総連合は、以下のとおり異議の申し出をおこないます。
記
1.8月10日、愛知地方最低賃金審議会は愛知県の地域最低賃金の時間額を、これまでの745円に中央最低賃金審議会が示した目安「4円」に1円を上積みして750円とするとの答申をおこなった。今回の答申は、どの点からみても評価できるものでなく、少なくともAランクの都府県での改定、生計費実態などを考慮したうえで、今回の答申を破棄し、少なくとも800円を上まわる引き上げを求めるものである。
理由
1.働く者の生活実態より、中賃「目安」に拘泥した「答申」であること
(1)愛知地方最低賃金審議会(以下「愛知審議会」という。)の今年の答申は、唯一「中賃目安」をよりどころにしておこなった答申である。中賃のAランク「4円」という目安そのものが、政府の「雇用戦略対話」合意を無視し、東日本大震災を口実に引き上げ幅を抑制したものであり、「愛知審議会」はこの間の経過すら十分な議論をなさないまま、わずか「1円」を上積みし、労使の賛成による低額の答申をおこなった。
中賃の「目安答申」は、最低賃金法第9条の2項の「地域における労働者の生計費・賃金」はもちろん、「支払い能力」さえ考慮せず、「東日本大震災」を口実に引き上げを押さえ込んだものである。議論では、東日本大震災によって、企業の経営や経済がきびしいなどがだされたようであるが、「何がきびしいのか」「何が原因なのか」はまったく明らかにされないままだった。愛知審議会の答申は、これを無批判に受け入れたものであるといわざるをえない。
(2)全国的にも今年の最低賃金は、東日本大震災を口実に抑制されたが、それでも「生活保護との逆転の解消だけではなく、目安を上まわる改定を答申した地方もある(埼玉=目安+4円、大阪=目安+3円、兵庫=目安+3円、佐賀=目安+3円)。わずか1円の上積みで労使が賛成したことは、労働者の生活改善に寄与し、今日の経済情勢を少しでも上向きにしていくという最低賃金の役割を否定するものであるといわざるを得ない。
2.労働者の声を無視した審議のあり方の抜本改正を
(1)「中賃目安」に唯々諾々としたがう愛知審議会の議論は、労働者の雇用実態や「生計費」の実態について、検討した経過がまったく見られない。愛労連は最低賃金による「生活体験」や「実態生計費」の調査結果等、現実の労働者の生活と最低賃金があまりにかけはなれていることを明らかにした資料を提出し、まともな議論を求めてきたところである。また、非正規・時間給労働者の実態について審議会における「意見陳述」を求めてきた。ところが審議会では文書における「意見の提出」があることでこうした声を無視してきた。ある使用者側委員は、出身団体に対する愛労連の要請をもって「話は聞いた」とし、また労働者委員は「われわれが労働者の代表だから」という理由で、意見陳述を拒否してきた。
(2)団体への要請と、審議会における意見陳述はまったく性質の異なるものである。これを同質に扱うのは審議会の役割を否定するものである。また「労働者の代表」なら、なぜ労働者の声を聞こうとしないのか、当該組織の労働者の声を反映しているというならどういう内容で審議会に反映しているのかを明らかにするのが責務である。意見陳述は審議の妨げをするものではなく、むしろ審議での議論をゆたかにするものである。だからこそ、宮城や高知、今年は京都、大阪でも実施された。全国的に広がりつつあるのは、それぞれの審議会が少しでもまともな議論を深め、納得のいく改定にむけて努力している結果ではないだろうか。
(3)愛労連は、あらためて審議会における意見陳述や専門部会での傍聴など、開かれた議論をおこなうよう、現在の運営のあり方の抜本的な改善を求めるものである。
3.現行の最低賃金は「生計費」ではなく「家計補助・被扶養者水準」である
(1)愛労連は7月8日に「愛知県の最低賃金改定に関する意見」でものべたように、最低賃金の水準が「生計費」を考慮したものではなく、「家計補助水準」あるいは「被扶養者水準」にとどまったままであることを指摘してきた。だからこそ、生活保護水準との逆転という、あってはならない事態がおきるのである。愛知では逆転はないというが厚生労働省の比較方法はきわめて意図的である。「家計補助水準」というのは所得税法上の課税最低限度額103万円が基準になっていること、また被扶養者水準は130万円であり、これを常用労働者の労働時間2000時間の4分の3である1500時間で割れば700円前後であり、被扶養者の場合でも130万円で867円程度となる。
(2)このような事態を放置したままでは、最低賃金の改定は遅々としてすすまない。最低賃金法に照らして改定するにはILO131号条約の趣旨(①労働者と家族に必要な国内の一般的賃金水準、生計費、社会保障給付、他の社会的集団の相対的生活水準、②経済的要素『経済発展上の要請、生産性水準並びに高水準の雇用を達成・維持する必要性を含む』を考慮して最低賃金を決定)をふまえて改善を早期におこなうべきである。
4.生活実態とかけはなれた最低賃金。生計費は1286円が必要
(1)上記のように、現行の最低賃金が「家計補助」を基本にしているため、生活実態との乖離は大きい。愛労連が調査した「生計費」について7月8日提出の「意見」に詳細に記載しているので参照していただきたい。それによると年額で2,682,072円、月額223,506円、時間額にして1,286円が最低でも必要な額という結果になった。この結果はまた、全国でも同様な調査がおこなわれたが、以下のような結果になっている。この調査結果は、全国一律最低賃金制確立が急務であることを明らかにした。
5.非正規労働者・低賃金労働者の増加は日本経済にとってマイナス
(1)最低賃金は、唯一法律で定める賃金である。通常、賃金は労働市場において労使の交渉によって決まるものであるが、非正規労働者・短時間労働者、また労働者性をもちながら「個人請負」とされている労働者などが急増しているが、こうした労働者は交渉によって、みずからの賃金を決定することは不可能な状態にある。こうした労働者の最低限度の生活を維持するために最低賃金法はあり、その趣旨にもとづいて、額を決めることになっている。
(2)年収200万円以下の労働者が1100万人になろうとしている。非正規労働者・短時間労働者は、ひとつの仕事で生活できる賃金が得られないため、ダブルワーク・トリプルワークをしている人も多い。非正規労働者・低賃金労働者の急増は消費をいっそう萎縮させ、デフレ経済に拍車をかけることになる。経済を内需拡大型に転換するうえでも最低賃金の引き上げによって、消費拡大をはかることが欠かせない。同時にそれは税収増にも結びつき、景気回復の大きな基点になることはまちがいない。こうした状況も含めて、最低賃金の役割を明確にした改定が求められている。
6.労働者が納得のいく改定を
今回の答申は、とうてい納得のいかない水準であることは多くの労働者の〝思い〟である。審議会での議論をあらためておこなうとともに、愛知労働局長が最終的に決定することになっているが、労働局長の判断においても上記の内容をふまえた決定を要請するものである。
愛労連は、別途中小企業の支援策の実現を政府にも要求しているが、「震災」や「中小企業の経営危機」を理由に抑制することは、最低賃金の本来の役割を否定するものである。法の趣旨と労働者の実態という視点から最低賃金の改定について、あらためて要請するものである。