愛知地方最低賃金審議会会長 皆川 正 様
議長 榑松 佐一
「平成23年度地域別最低賃金額改定の目安について、貴会の調査審議を求める。」
平成23年7月1日 厚生労働大臣 細川 律夫
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「雇用戦略対話合意」への言及や「最賃底上げをふまえて」といった、この間の大臣諮問においてしばしば添えられた政治的メッセージも、まったくありませんでした。
今野浩一郎会長は、会長就任にあたっての発言で、「今年の改定審議は、東日本大震災の影響について、特段の配慮が必要である。そのため、事務局には、震災関連の統計資料の追加を特にお願いしたい」と話しました。その後会長は労使にむかって、意見はないかと尋ねました。労使委員はともに無言のまま、わずか20分弱で審議は終了。その後、第1回目安小委員会は非公開だとして、傍聴者は、退出させられました。
(2)最低賃金「引き上げ抑制」は、復興を遅らせる
3月11日に発生した東日本大震災が、最低賃金の引き上げや経済の再生にむけてどのように影響するのかが懸念されるところです。
愛知をはじめ全国37の経営者協会が6月16日、「中賃」および厚生労働省、関係機関に対し、次のような「要請」をおこないました。
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この内容は、「地方の実情」を理由にした「最賃引き上げ」の抑制を求めたものといえます。たしかに愛知県をはじめ「東海圏」は東日本大震災の〝間接被害〟が全国的にも際だった地域で、中小企業等は「部品・材料の調達」によって経営が困難になりました。しかし、その最大の原因は日本経団連の米倉会長が述べているように「コストダウンを求めて、(供給地を)集中しすぎた」(4月12日「朝日」)からです。東北地方はとくに最低賃金が低く、最も高い東京と比較して170円以上の差があります。このことが東北地方での人件費が低く抑えているのです。
上記経営者協会の「要請」には、親企業・大企業が果たすべき責任についてはふれておらず、困難さを最低賃金引き上げに転嫁するものといわざるをえません。
(3)賃上げ・雇用拡大こそ経済の活性化、復興の早道
私たちは、東日本大震災というかつてない課題に直面し、その復興に全力をあげているところです。そのためには、最低賃金引き上げを抑制したり、あるいは日本経団連が主張するように、労働基準法の規制をさらに緩和することではなく、東北・北関東においては公的事業の確保と拡大、日本全体の視点からみるならば最低賃金引き上げの抑制・国家公務員賃金削減ではなく、労働者がまともな生活ができる賃金の保障と雇用の拡大をはかること、そのことが経済を活性化させ、復興を早めることにつながるという立場から、積極的な最低賃金の引き上げを求めるものです。
2.現行最低賃金は「生計費」を考慮すべきである
(1)現行最低賃金は「課税最低限103万円」の「家計補助」水準をベースにしている
最低賃金の焦点は、「中賃」の目安がいくらになるかということが話題になりますが、しかし現行の最低賃金水準は最低賃金法に規定されている「生計費」をどのように具体化しているのでしょうか。現在、最低賃金の全国平均は730円です。愛知は745円ですが、この額は果たして生活できる賃金でしょうか。愛労連は毎年、青年を中心に現行最低賃金での「生活体験」をおこなっていますが、とてもくらせる賃金ではありません(資料1)。
国際的にみても低い水準にある日本の最低賃金の「基準」が、所得税における課税最低限103万円、あるいは被扶養家族の130万円が前提になっていることは明らかです。年間総労働時間を2000時間とし、その4分の3の1500時間で課税最低限の103万円を割ると687円、健康保険における被扶養者認定基準の「130万円未満」を同時間で割っても866円です。最低賃金が「生計費」ではなく、「家計補助的」な水準におかれていることは明白です。だからこそ、生活保護水準との逆転などという現象がおきるのです。
(2)非正規労働者は全労働者の3分の1以上に達している
日本の雇用は、正規で終身雇用が前提でしたが、95年日経連「新時代の日本的経営」以降、非正規労働者が急増しました。今日、非正規労働者は全労働者の3分の1になり、女性や若年層では2分の1をこえています。職場によっては圧倒的に非正規労働者という状況にあります。さらに非正規労働者の職務が〝補助的〟な業務に限らず、中枢を担うまでにいたっています。ところが賃金はあいかわらず「家計補助水準」から抜け出していません。このため、国税庁の調査でも、年収200万円以下の労働者が1100万人にせまろうとしています。また多くの非正規労働者は、社会保険への未加入などもあり、不安をかかえながら生活しています。貧困の蓄積は、社会そのものの活力をうばい、経済をいっそうデフレに導くものです。また貧困は、本人にとどまらず、子どもたちにも深刻な影響をあたえています。
貧困の解消は、政府とばく大な内部留保をためこんでいる大企業(資本金10億円以上)の責任で解消すべきです。
3.名古屋で単身青年が生活するには「時給換算で1286円」が必要
(1)人前に出ても恥ずかしくないくらしをするには
愛労連は昨年、「人前に出ても恥ずかしくない生活」をするにはいったいどのくらいの費用がかかるのかという「生計調査」にとりくみました。生活実態とともに、調査対象者の7割の人がもっている「手持ち材」をピックアップし、その価格調査をおこないました(詳細は別冊参照)。それによると、時間額・月額・年額は以下のとおりです。
(25歳・男子単身者が名古屋市内で生活するとして)
時間額 1,286円
月 額 223,506円
年 額 2,682,072円
※いずれも税込み額
このように、実際の生活費は現行の最低賃金とあまりにかけはなれていることが明らかになりました。つまり現行最低賃金は、「人前に出て生活するには恥ずかしい水準」であることが証明されたわけです。また、時給1000円という私たちの従来の要求はきわめて控えめな要求でもあるということです。
(2)「働いても、働いてもゆとりがない」と神奈川で引き上げ求め提訴
神奈川県で、最低賃金を時給1000円以上に引き上げることを求めて50人が原告となって裁判が起こされました。神奈川県の最低賃金は、818円で愛知より73円高くなっているものの、提訴後の会見で原告のひとりは「月170~210時間働いても総支給額が10~17万円にしかならない」、「トリプルワークをしても最大月22万円しか得られなかった」など、実情を訴えました。神奈川の場合、生活保護水準との〝逆転〟の解消という課題もあります。しかし今回の裁判は、「生活保護との逆転」がおきている地方にとどまりません。愛知県の場合、最低賃金は神奈川より低いのですが、生活保護水準はクリアしていると厚生労働省は判断しています。しかし、その計算方法には大きな問題があります。この点は昨年も指摘したところです。要は現行の最低賃金では生活ができないことです。最低賃金の絶対額が低いことが問われる裁判でもあります。
4.審議会は「中賃」目安のみを「引き上げ」基準とせず、労働者の実態を考慮すべき
(1)総合的な視点で最低賃金引き上げを
中央最低賃金審議会の目安小委員会での議論がはじまりましたが、愛知地方最低賃金審議会は、「中賃」が示す「目安」のみを基準とせず、労働者の実態をくみつくし、最低賃金法が規定する「生計費」を考慮して、引き上げ改定をおこなうべきです。
すでにのべたように、今日の最低賃金が「家計補助的な賃金」という「課税最低限の103万円」を基本にしていること、また実際の生計費は、1286円(名古屋の場合)であることなど、私たちがこの間、明らかにしてきた現行の問題点を審議会でもぜひ議論をし、判断するうえでの材料にしていただきたいと考えます。
(2)審議会での意見陳述、専門部会における傍聴の実現を
審議会の審議において、実態を把握するうえで「意見陳述」は欠かせません。非正規労働者や時給労働者がどの程度の賃金水準なのか、どのような生活をしているのかをぜひ把握していただきたい、そのためにぜひ、意見陳述を実施していただくよう要請するものです。
また、本審以外の専門部会等では傍聴すら認められていません。その理由は「本音の議論ができなくなる」というものですが、これでは専門部会等で何が議論されているのかわからなくなります。審議会での議論は基本的に公開すべきです。
以上、2011年の審議会の開催にあたり、愛労連としての要望を提出します。